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大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)15号 判決

原告 河静子

右訴訟代理人弁護士 田畑政男

右訴訟復代理人弁護士 田中美智男

被告 大阪国税局長 丸山英人

右訴訟代理人弁護士 松田英雄

右訴訟復代理人弁護士 丸尾芳郎

同 林義久

右指定代理人検事 蔵田泰雄

〈ほか四名〉

主文

一  被告が原告に対し、昭和四一年五月二四日付納付通知書によって、原告を訴外不二越ゴム株式会社滞納にかかる国税の第二次納税義務者としてなした納付告知処分を取消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

一  原告

(一)  被告が原告に対し、昭和四一年五月二四日付納付通知書によって、原告を訴外不二越ゴム株式会社(以下訴外会社という)滞納にかかる国税の第二次納税義務者としてなした納付告知処分を取消す。

(二)  被告が原告に対し、昭和四一年一一月三〇日付でした原告の異議の申立てを棄却する旨の決定を取消す。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

(一)  原告の請求はいずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

(当事者の主張)

第一原告の請求原因

一  被告は原告に対し、昭和四一年五月二四日付納付通知書によって、原告を納税者訴外会社滞納にかかる国税の第二次納税義務者として金三五万二、九五五円を納付すべき旨の納付告知処分(以下本件告知処分という。)をなし、その旨原告に通知した。

二  これに対し原告は同年六月二日被告に異議の申立てをしたところ、被告は同年一一月三〇日付でこれを棄却する旨の決定(以下本件決定という。)をなし、その旨原告に通知したが、右決定書には棄却の理由として「申立人が不二越ゴム株式会社の清算人であることは昭和三六年五月一五日の臨時株主総会の議事録および登記簿抄本により明らかである。また同法人の建物売却代金を申立人の夫金貴順氏に分配したことは同法人の調査および更正処分の内容によって認められ、原処分はこれにもとづいて清算人である申立人に対し第二次納税義務の告知処分をしたものであって申立てには理由がない。」と記載されている。

三(一)  しかし原告が訴外会社の清算人に選任されたことはなく、また訴外会社が建物売却代金を訴外金貴順に分配したこともないから、本件告知処分は違法として取消しを免れない。

(二)  また本件決定に付記された理由は、抽象的でその趣旨が不明であるから理由の記載を欠いているに等しく、したがって本件決定も違法として取消さるべきである。

第二被告の答弁および主張

一  請求原因一、二の事実は認める。同三(一)の事実は否認する。同三(二)の主張は争う。

二(一)  訴外会社は、昭和三六年五月一五日解散した解散法人であり、原告は訴外会社の清算人である。

(二)  訴外会社は同年四月三日ころその所有する別紙目録(一)記載の借地権付建物(以下建物のみを指すときは本件建物、借地権を含むときは本件借地権付建物という。)を、原告が所有する同目録(二)記載の土地(以下本件土地という。)とともにこれを一括して、訴外有限会社ナショナル(以下ナショナルという。)に代金九二五万円で売却した(以下本件売買という。)しかして右代金のうち本件借地権付建物の売却代金相当額は当然訴外会社に帰属すべきところ、その金額は、本件建物の評価額を金九六万一、二五〇円、本件土地(更地)の評価額を金八二八万八、七五〇円とし、借地権の評価額を本件土地の四五%すなわち金三七二万九、九三七円として算定すると金四六九万一、一八七円となるから右処分の結果訴外会社には同定資産売却益が発生した。

(三)  しかるに訴外会社は右売却益にともなう法人税の申告をしなかったので、所轄の訴外松江税務署長は、同年九月三〇日訴外会社の同年三月一日ないし同年五月一五日事業年度(以下解散事業年度という。)の法人税につき課税標準たる所得金額を金三五〇万三、〇九七円(算出根拠は別表損益計算書記載のとおりである。)、法人税額を金一三八万五、四六〇円、無申告加算税を金二七万七、〇〇〇円とする決定処分をした。

(四)  これに対し訴外会社は、同年一〇月二六日松江税務署長に対し再調査請求をしたが、訴外会社が同年一〇月二〇日本店を大阪市生野区猪飼野中四丁目一七番地に移転したため、右再調査請求事件は松江税務署長から所轄の訴外生野税務署長に移送され、その後三ヶ月を経過したので被告に対し審査請求があったものとみなされ、被告は昭和三八年九月二七日棄却の裁決をし、その旨通知したが、これに対しては訴外会社から訴えの提起がなされなかったので、前記決定処分は確定した。

(五)  以上のとおり訴外会社は解散事業年度の法人税金一三八万五、四六〇円、無申告加算税金二七万七、〇〇〇円(これらの法定納期限は昭和三六年七月一五日である。)の国税を納付する義務を負うに至ったが、現在に至るもこれを納付しない。

三(一)  本件売却代金九二五万円のうち、訴外会社は金二九九万七、〇〇〇円を自己の債務弁済に充てたが、残額金五二五万三、〇〇〇円については昭和三六年四月六日金一五〇万円、同年五月一八日金四七五万三、〇〇〇円を訴外会社の株主でかつ取締役であった金貴順に引渡した。

ところで新外会社に帰属すべき本件借地権付建物の価額は前記のとおり金四六九万一、一八七円であるから、これから右の債務弁済に充てられた金二九九万七、〇〇〇円を差し引くと訴外会社の残余財産の価額は金一六九万四、一八七円となり、訴外会社はその全額を金貴順に引渡したことになる。その結果訴外会社は無資産となり前記国税を徴収することが不能となった。

(二)  ところで訴外会社の資本金は金一二〇万円、うち金貴順の出資額は二五〇株金二五万円であったので、金貴順が分配を受けた残余財産金一六九万四、一八七円のうち金三五万二、九五五円はつぎの算式により訴外会社が金貴順に対し残余財産の分配をしたものであり、原告は国税徴収法第三四条により、訴外会社の清算人として右金額の限度で第二次納税義務がある。

算式:1,694,187円×250,000円/1,200,000円=352,955円

(三)  被告は訴外会社の国税の徴収につき、昭和三七年四月二五日当時の国税通則法第四三条第三項の規定により所轄の生野税務署長から徴収の引継を受けた。

四  よって被告のなした本件告知処分に何ら違法はない。

第三被告の主張に対する原告の答弁

一(一)  被告の主張二(一)の事実は否認する。

(二)  同二(二)の事実のうち、訴外会社が昭和三六年四月三日ごろその所有する本件建物を、原告が所有する本件土地と一括してナショナルに売却したことは認めるが、売却代金が金九二五万円であることは不知、訴外会社に本件建物の売却益が発生したことは認めるが、借地権付建物の売却であることは否認する。原告は訴外会社に本件土地を貸していたが、それは使用貸借であった、かりに訴外会社に借地権があるとしても、その評価額が本件土地価格の四五%に相当すること、本件借地権付建物の売却代金相当額が金四六九万一、一八七円であることはいずれも争う。

(三)  同二(三)の事実のうち、松江税務署長が同項記載の決定処分をしたことは認める。

(四)  同二(四)の事実のうち、訴外会社が同年一〇月二六日松江税務署長に対し再調査請求をしたこと、訴外会社が訴えを提起しなかったことは認めるが、訴外会社が同年一〇月二〇日本店を松江市から大阪市生野区猪飼野中四丁目一七番地に移転したことは否認する。その余の事実はすべて不知。

(五)  同二(五)の事実のうち、訴外会社の法人税金一三八万五、四六〇円、総申告加算税金二七万七、〇〇〇円の法定納期限が昭和三六年七月一五日であることは不知。

二(一)  被告の主張三(一)の事実のうち、訴外会社が本件売買の売却代金のうち、金二九九万七、〇〇〇円を自己の債務の弁済に充てたことは不知、金貴順が訴外会社の株主でかつ取締役であったことは認める、その余の事実は争う。

(二)  同三(二)の事実のうち、訴外会社の資本金が金一二〇万円であること、金貴順の出資金が二五〇株金二五万円であったことは認めるが、訴外会社が残余財産金一六九万四、一八七円のうち金三五万二、九五五円を金貴順に分配したことは否認する。

(三)  同三(三)の事実は不知。

第四原告の答弁に対する被告の反論

一(一)  訴外会社は資本金一二〇万円の小規模、小資本の株式会社であって、株主中金貴順、市川昇および森永忠夫の三名が実質株主であり、他はいずれもいわゆる名目株主でその保有株式はすべて実質上は金貴順に帰属するものであった。そして本件売買にさいし右実質株主三名は全員が松江市において会合し、訴外会社は本件借地権付建物をナショナルに引渡すと同時に解散すること、原告を清算人にすること、本店を松江市から大阪市に移転することについて合意が成立した。

したがって右の会合は全員出席集会として訴外会社の臨時株主総会を適法に構成したものと認め得べきもので、その合意は解散、清算人選任および本店移転に関し適法に成立した有効な株主総会の決議と評価すべきものである。

(二)  かりに右株主総会には招集手続に瑕疵があるとしても、その瑕疵は株主総会決議取消の訴えによらなければ主張しえないものである。

二(一)  以上の主張が理由がなく訴外会社の解散、清算人選任および本店移転の各登記が株主総会の決議によらないでなされた不実のものとしても、右登記は原告もしくはその代理人としての金貴順の承認を得て、前記合意に基づき、市川昇および森永忠夫によってなされたものであるから、訴外会社の代表者である原告は商法第一四条により登記事項が不実であることをもって善意の第三者である被告に対抗しえないものである。

(二)  かりに右登記が原告の知らない間になされたものとしても、その後原告は不実の登記がなされていることを知ったにもかかわらず、その抹消を怠ったものであるから同法条の適用を免れることはできない。

第五被告の反論に対する原告の答弁

すべて争う。

(証拠)≪省略≫

理由

一  請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二  本件告知処分の取消請求について

(一)  被告は原告が訴外会社の清算人としてその清算事務にたずさわったものとして本件告知処分をしたものであるところ、なるほど弁論の全趣旨によりその成立を認める乙第六号証の二(訴外会社の臨時株主総会議事録)には訴外会社が昭和三六年五月一五日臨時株主総会を開催し、解散を決議し、清算人に原告を選任した旨の記載が存するが、≪証拠省略≫によれば、右乙第六号証の二は株主総会を開催することなく、従ってまた訴外会社の解散及び原告を清算人に選任する旨の決議は存在しないのに訴外会社の経営を支配していた取締役金貴順の指示により、代表取締役市川昇および監査役森永忠夫によって作成されたものにすぎず、その記載は事実と相違することが認められるから記載にかかる各決議の適法有効な成立認定のための証拠に供し得ないことはいうまでもなく、そして他に被告のこの点の主張事実を認めるに足りる証拠はないから、訴外会社の解散は勿論、原告が清算人として選任され、その事務にたずさわったことはないというほかはない。

(二)  ところで被告は株主総会決議不存在は訴を以てのみ主張でき、原告が本訴において本件臨時株主総会の不存在を主張することは許されない旨主張しているが、株主総会の決議がその成立要件をすべて欠き決議の成立自体を否定すべきとき(決議が不存在と認められる場合)は何人も如何なる時期に如何なる方法によってもこれを主張しうるものと解するのが相当であるから被告のこの点の主張は失当である。

(三)  また被告は、かりに訴外会社の解散もなく、原告が清算人に選任されたこともないとしても、訴外会社は、解散した旨及び原告が清算人に選任された旨の登記を経由しているから、訴外会社は勿論その代表取締役である原告は商法第一四条により右登記事実が不実であることを以て善意の第三者である被告に対抗し得ないと主張するのでこれについて判断すると、≪証拠省略≫によれば、被告主張のとおりの登記が存することを認めることができるけれども≪証拠省略≫によれば右の登記は原告の全く関知しないところでなされたものであり、原告は本件告知処分がなされるまで右不実の登記が存することを知らなかったことを認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はないから商法第一四条の適用はないと考えられるのみならず、かりにその適用により原告が訴外会社の清算人でないことを以て被告に対抗できないとしても、原告が現実には何らの清算事務処理にも終始たずさわることがなく、従って被告主張の残余財産の分配行為にも一切関与していなかったことは≪証拠省略≫に徴して明らかであるから既にこの点において原告は国税徴収法第三四条の第二次納税義務を負うものではないことが明らかと解せられるから被告の右主張も失当である。

(四)  そうだとすれば被告のなした本件告知処分はその余の点について判断を加えるまでもなく、違法として取消されるべきである。

三  本件決定の取消請求について

原告は本件決定に理由の付記を欠いたに等しい瑕疵があると主張するので検討する異議申立てに対する棄却決定の理由付記の程度としては、原処分を正当として維持したその判断の根拠を申立人に理解できる程度に具体的に記載すべきものと解されるところ、請求原因一の当事者間に争いのない事実によれば、本件決定には法の要求する右の程度に具体的理由が付記されているものと認められるから、本件決定には瑕疵はなくその取消しを求める原告の請求は理由がない。

四  結論

よって原告の本訴請求のうち、本件告知処分の取消しを求める請求は正当としてこれを認容するが、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 松井賢徳 仙波厚)

〈以下省略〉

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